変革の時代を生きる<経済月報掲載>

エネルギー利用の最適化で地球環境を守る


■IT技術で電力消費を自動制御

 

小林      IT 技術を活用した省エネ促進システムの開発、販売の分野で、大きな実績を上げています。

 

小布施  全ての事象がデジタル化されてインターネット回線でつながることを「IoT」(Internet of Things)といいます。

当社のEMS(エネルギー・マネジメント・システム)は、IoTによって、日本だけでなく海外にある機器のデータも自社のサーバーに蓄積し、そのデータを基に、ネットを経由して空調機器等を自動制御しているのが特徴です。今、タイのバンコクにある自動車販売会社にシステムを入れていますが、すべて長野でコントロールしています。この分野では当社が最先端だと自負しています。

 

小林      具体的には、何をどうコントロールするのですか。

 

小布施  エネルギー消費の大きい空調を始め、照明や冷蔵庫・冷凍機などの設備が無駄なく稼働するように管理します。

時間帯別の使用量が送られてきますから、一番暑い時にはこの位にしようという計画に基づいて、手間をかけずに自動制御するわけです。温度センサーを適切な位置に設置することで、空調機の設定を上げることができる。

それだけで消費エネルギー量は10%程度削減でき、全体の効率的な使用につながっていきます。

 

小林     契約者のエネルギー使用状況が、ここで一元管理できるわけですね。

 

小布施  顧客の使用電力については、スマートメーターによる監視体制によって24時間365日のデータを蓄積しています。

地球温暖化など気象の変化が激しい時代だからこそ、リアルタイムで必要な情報をいかに確実に収集し、それを電力使用量の削減にどう活かすかが大切です。

 

 

■全メーカーに対応できる独立系の強み

 

小林      エネルギー使用の制御に関しては、システムを購入し、お客様が自分で管理するという製品もありますね。

 

小布施  一般的にはそういう物が殆どでしょう。

当社と同じような製品もありますが、空調メーカーが提供するシステムは自社製品にしか対応できないものが多い。うちは独立系ですから、ガス式の空調設備を含め、どこのメーカーの製品でも制御できますし、温度による自動制御など独自の技術を確立している点が大きな強みです。

他社が同じことをしようとすると、イニシャルコストで約10倍はかかると思います。

 

小林      それは顧客にとっても大きなメリットですね。

 コストがかかってしまえば、経費削減につながらないという懸念も生じます。

 

小布施  仮に導入に経費がかかったとしても、当社のシステムを導入すれば、省エネ効果によって利益が出ます。

例えば、月に100万円の光熱費を払っているとします。省エネのシステムを導入して光熱費が80万円になれば20万円が浮く。その半分をリース会社に支払うと考えても10万円は純利益になります。実際に機器を導入した翌月からエネルギーコストが減るわけです。月々のメンテナンス料金も当社なら1万円程度と、他社と比べて非常に安いですから、確実に利益につなげられる。

 

小林      翌月からすぐに純利益が出るというのは大きい。

普通の経営者ならすぐに飛び付くでしょう。

 

小布施  電力会社との関係もあって、ためらってしまうのです。

実際、私もこの仕事を始めた頃には、「電力会社がそんなことをやらせるわけがない」とか「簡単に電気代が安くなるなんて話が上手すぎないか」と言われたものです。また、省エネシステムを導入しなくても会社の経営が悪化するわけでは無いから、結論が出るまでに時間がかかるというもどかしさもあります。

 

小林     そういう逆境を乗り越えて、省エネ分野のトップランナーとなった。

 

小布施  「会社のためが地球のためになる」という理念を持って、地道にお客様を増やしてきた結果ですね。

IoT 技術による自動制御とデータの「見える化」を実現できたことも大きい。これによってお客様も現状把握がしやすくなりますから、大 きな説得力になります。データを社員に閲覧させ、原価意識の向上を図っているという企業もあります。社員の省エネ意識が高まれば、節電だけに留まらない効果が期待できますから。

 

 

環境意識の啓発も事業の大きな目的

 

小林      このエネルギー最適化システムや省エネ支援のシステムは、どのようにして開発したのですか。

 

小布施  今後の柱となりそうな事業を検討していく中で、どうせやるなら社会に役立つことをしたいと、社員皆で知恵をしぼって、さまざまな技術を探して

組み立ててきました。その過程で電気料金の体系に着目しました。料金体系が基本料金と使用料金の2つに分かれているのは世界でも5カ国ぐらいですが、この基本料金をどう下げるかということから考え始めたのです。

 

小林      基本料金はどういう仕組みで決められるのですか。

 

小布施  電気の基本料金は、1年間のうちたった1日、しかも30分のピーク電力値で決められています。これはどう考えても理不尽です。

電力会社は、この基本料金が発電所を作る原資だと言い、それでみんな納得していた。電力会社は経済界にも影響力が大きくて、そこに誰も異を唱えることができないような雰囲気だったのです。しかし、2011年に福島で原発事故が起きて、この構造にようやくメスが入れられるようになりました。

 

小林      否応なしに節電の必要性が出てきた。

 

小布施  事故後、原発が次々に停止し、大都市では計画停電という言葉も頻繁に聞かれるようになり、国主導で電力の総需要を抑制する方向になった。

節電装置設置にも補助金を出して普及に努めたし、生活を脅かすリアリティがある問題として、市民の関心が環境に向けられるようになったことも大きい。

 

小林      省エネしなければエネルギーがもたない、ということにみんなが気付いたと。

 

小布施  それまで利益を追求することしか考えていなかった企業経営者も、環境に関心を持つようになったと思います。

当社も一挙に売り上げが倍になりました。原発事故がきっかけでしたが、私達のビジネスでは環境意識の啓発も大きな目的の一つです。「一緒に環境経営を目指しましょう」という呼びかけは常にしています。たとえ契約に至らなくても、その理念だけは伝えられる。

 

小林      経営する上で、大切な理念ですね。

 

小布施  利益ばかりを求めていたら企業は継続できません。

社会や環境にとって役に立っているという思いがないと、事業を続ける価値もないし、実際仕事としておもしろくもないですね。

 

 

「創エネ」の前に「省エネ」を

  

小林      御社の歴史の中で、最初の転機となったのはいつですか。

 

小布施  日立系列の販売経路が確立でき、大手の家電量販店に製品を導入していただいた頃ですね。

実際に節電効果が実証され、それから徐々に認知度が広がっていきました。

 

小林      その後、支店も徐々に増やしていかれた。

 

小布施  各地に拠点を設けたことで、商社系列の販売チャンネルも増えました。

ただ、企業にとって、省エネは必ずしもやらなければならないものではありませんから、一気に伸びないし、自治体もなかなか踏み切らない。国や県・市町村関連の施設が全部取り組めば、年間でかなりの電力が浮くはずです。原子力発電所の1基や2基は優に要らなくなるかもしれない。

 

小林      官庁が先陣を切って省エネに取り組んでほしいところですね。

 

小布施  当社の主力製品であるPN シリーズは全国で1000件以上導入されていますが、年間で約1億3000kWhの電力削減効果を上げています。

これは一般家庭約1万2000世帯の年間消費量と同じで、削減金額に換算すると約154300万円、長野市全世帯の1カ月分の電気代に相当します。

 

小林      今あるエネルギーをいかに効率よく使うか、考え直す必要がありそうです。

 

小布施  「創エネ」という掛け声で、新たな再生可能エネルギーの活用や、原発の再稼働などが計画されていますが、EMS を活用した省エネで、

新しく発電所を作るよりはるかに低い経費で電力の需給バランスをとることが可能だと信じています。

「創エネ」の前にまず「省エネ」が第一歩だと主張したいですね。

 

 

省エネ装置が常識となる時代

   

小林      これからの流れはどうでしょうか。社会の潮流はますます御社の技術を必要としているように思えます。

 

小布施  電力自由化の流れの中で、自社の顧客を守るため、これからは電力会社自身が省エネ機器を取り付けることを検討しています。

5年後には、工場やビル、家庭にもスマートメーターが付くことが当たり前になるでしょう。どこでどのくらいの電気を使っているかが明確になれば、全体で効率よく電力を使うことができます。

 

小林      余っているところから足りないところへ電気を回す、いわゆるスマートグリッドですね。アメリカも同じようなことをやろうとしています。

 

小布施  企業にとっても環境問題への取り組みはステータスになっています。

これはイメージだけの問題ではなく、環境への具体的な取り組み姿勢で優遇金利が適用されたり、税制の優遇が受けられたりするようになりました。EMS 導入経費などは全額損金処理ができますから、企業は導入しやすくなっています。

 

小林      国もこの問題については必死です。

 

小布施  一方で、省エネ機器のレンタルやエスコ事業(お客様の光熱費等の経費削減を行い削減した実績のなかから省エネコストを賄う事業)も広まりつつあります。

これですとお客様は初期費用が必要ありませんから、ますます導入がしやすくなる。大学・病院・ホテル等で既にエスコ事業の実績が出始めています。

 

小林      家庭用への参入は。

 

小布施  やりたい気持ちはありますが、電力使用量を自動制御するために、一戸一戸を24時間監視することは、負荷が大きすぎて中小企業では手が出せない。

家庭用以外の分野で、人間関係を含めて細かいサービスをやり切ることを目標にしています。

 

 

時代のニーズをとらえるセンスを大切に

 

小林      日頃、経営者として考えていることや心掛けていること、社員に要求していることはありますか。

 

小布施  社員には好き勝手にやっていいと言っています。マナーや一般常識は必要ですが、マニュアル化されると人は考えなくなる。

本当に能力のある人は、自ら考えながら能力を伸ばしていく。だから、当社にはマニュアルはありません。環境で社会貢献するという会社の方針に沿って誠実にやってくれればいい。

 

小林      一人ひとりのアイデアを大切にされていると。

 

小布施  社員のアイデアというよりは、お客様の要望に沿って製品を作っていくことです。

商品開発にはユーザーの意見を取り入れなければいけませんし、セールスも買い手の価値判断によって初めて成り立つわけですから、価値やお金を払う意義を認めてくれる顧客を探す。そして、啓発することでさらに顧客を開拓し、増やしていく。そういう意味では、大事なのは技術的なアイデアより、ニーズをキャッチするセンスでしょうか。

 

小林      時代の要求をとらえること。

 

小布施  基本は当たり前のことを徹底すること。そして、常に地球環境への感謝を忘れずに、変化し続けていきたいと思っています。

 

小林      環境問題について、真剣に考えていく必要があると感じます。今日はありがとうございました。